心の仕組み 下 (ちくま学芸文庫)

上巻が認知科学に関する内容だったために、私自身の知らないことが多く、なかなか進めませんでした。それはあまりにも分厚く、内容が豊かだったからであって、文章は、わかりやすい論理で、また日本語訳も含めて読みやすく書かれています。下巻は、社会生物学的なというか進化生物学的な視点でどこまで迫れるかということが書かれています。その意味では、私自身には親しく早く読めました。本書の最後の部分に、音楽はそれ自体が適応的なものではなく、人間に備わったさまざまな資質や刺激に対する反応、などをうまく利用して、強い刺激をもたらすようになったものであって、音楽自体は適応的有利さはない、という主張があります。私はこれには賛成できません。不適応なものであれば、すべての民族にこれほどまでに広がった形質が見られるとは思えないというのが進化生物学の常識です。音楽自体に、何らかの適応的意義を認めるとする多くの研究者の（著者も、多くの友人からそのように批判を受けるとまえがきに書いています）意見が正しいと思います。それが集団としての連帯を高めるものか、性淘汰に効果があるのか、などいくつかの可能性はあると思いますので、どれが正しいかは定量的な研究を進めればわかることでしょう。この本では著者の信念を語っているだけにとどまっていると感じます。